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求人条件の市場差を定点観測する方法|給与・勤務地・勤務形態と応募率を競合求人で比較

部署:人事・採用担当者部署:経営者・責任者レベル:実践採用DX採用マーケティング
競合求人の給与や勤務地、働き方を比較しながら求人条件の市場差を確認する採用担当者のイメージ

「半年前までは応募が集まっていたのに、最近は反応が落ちている」。こうしたとき、自社求人だけを見ても原因は判断できません。給与やリモートワーク、勤務地、福利厚生など、周囲の求人条件が変わり、自社の条件が相対的に弱くなっている可能性があるためです。

重要なのは、求人条件を一度だけ競合と比較するのではなく、同じ職種・勤務地・人材要件の求人群を基準線として定点観測し、自社の応募率と時系列で照合することです。

この記事では、比較対象の決め方、給与・勤務地・勤務形態・福利厚生の記録方法、市場差の計算方法、応募率と組み合わせた判断方法まで整理します。

求人条件は「市場平均」ではなく、同じ候補者が見る求人と比較する

求人条件を評価するときは、業界全体の平均だけで「高い・低い」を判断するのではなく、自社が採用したい候補者が実際に比較する求人群を基準にすることが重要です。

採用KPIと市場環境を併せて見る前提は、採用改善の効果測定の全体像で確認できます。

たとえば同じ営業職でも、東京都内の法人営業と地方のルート営業では候補者層が異なります。同じエンジニアでも、経験3年以上を求める求人と未経験者向け求人では給与レンジも競争環境も変わります。

さらに採用市場自体も動きます。厚生労働省によると、2026年7月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.10倍でした。新規求人倍率は前月から0.06ポイント低下しており、産業別・地域別でも動きが異なります。

したがって、「自社の給与を昨年から変えていない」というだけでは競争力を判断できません。競合側が条件を改善すれば、自社の求人条件は何も変えていなくても相対的に弱くなります。

求人条件を比較する前に5つの条件を固定する

定点観測で最初に行うのは、比較する求人の条件をそろえることです。会社名や業界だけで競合を決めると、実際には異なる候補者を採用している求人まで混ざります。

競合求人を比較する際に職種、経験レベル、勤務地、雇用条件、観測条件の5項目を固定する図

競合企業の名前ではなく、候補者が実際に比較する求人条件をそろえることで、市場差を正しく把握しやすくなります。

比較条件は最低でも次の5項目を固定します。

比較条件 固定する内容
職種 実際の仕事内容が近い職種 法人営業、Webエンジニア
経験レベル 必須経験・役職・スキル 営業経験3年以上
勤務地 通勤圏・勤務地・転勤条件 東京23区、転勤なし
雇用・勤務条件 正社員、契約社員、勤務時間など 正社員、週5日
観測条件 媒体・検索条件・観測日 毎月第1営業日に確認

求人媒体を使う場合は、候補者が実際に使う検索条件を再現すると比較対象を見つけやすくなります。

Indeedでも求人情報は、職種名、勤務地の種類、勤務地、雇用形態、給与、福利厚生などを別々の項目として扱っています。これらを同じ粒度で記録しておくと、求人ごとの比較がしやすくなります。

比較対象は「事業上の競合企業」ではなく、同じ人材を取り合う採用競合と考えるのが基本です。

定点観測する求人条件は給与・勤務地・勤務形態・福利厚生の4領域

求人条件の市場差を見る場合、給与だけを追うのでは不十分です。

2026年にテレリモ総研が、リモートワーク経験のある20〜65歳の働く人1,005人を対象に行った調査では、仕事選びで重視する条件として「給与・賞与の水準」が67.8%で最多でした。一方、「勤務地・通勤時間」54.7%、「リモートワークの可否・頻度」38.4%、「福利厚生の充実度」33.0%、「勤務時間の柔軟性」32.8%も挙げられています。

対象がリモートワーク経験者に限られるため、すべての求職者にそのまま当てはめることはできません。ただし、求人条件の比較を給与だけで終わらせず、働く場所や時間まで見る必要性を考える材料になります。

定点観測シートでは、次のように項目を分けると変化を追いやすくなります。

領域 記録する項目
給与 下限、上限、中央値、賞与、固定残業代、手当
勤務地 勤務地、転勤有無、通勤条件、勤務地変更範囲
勤務形態 出社、ハイブリッド、フルリモート、出社頻度、フレックス
福利厚生 住宅、育児、退職金、学習支援、副業、休暇制度

特に給与レンジは「300万〜800万円」のような幅だけを記録するのではなく、下限と上限を別々に保存してください。

2026年のJournal of Applied Psychology掲載研究では、求人に表示する給与レンジの幅や、典型的な開始給与・最終提示額の決定基準の明確さが、応募者の選好や交渉行動に関係することが複数の研究で検討されています。給与は金額だけでなく、どこからスタートする可能性が高いのかが分かるかという情報設計も確認対象になります。

求人条件の市場差は5ステップで定点観測する

定点観測は、毎回違う競合求人を集めるのではなく、可能な限り同じ条件・同じ手順で記録することが重要です。

競合求人の固定から条件統一、市場差の数値化、月次保存、自社応募率との照合までを示す5ステップ図

求人条件の市場差は、一度の競合調査ではなく、同じ比較条件で継続的に記録し、自社応募率と同じ期間で照合します。

STEP1 比較対象となる求人群を固定する

まず自社求人と候補者層が近い求人を抽出します。

運用を始める段階では、たとえば10〜20件程度の比較可能な求人から始め、継続して追える範囲を決める方法があります。

重要なのは件数そのものではありません。

「同じ職種」「近い経験要件」「同じ通勤圏」「近い雇用形態」という条件を毎月変えないことです。

競合求人が掲載終了になった場合は削除せず、「掲載終了」と記録します。新しい求人は新規追加として扱い、既存データを書き換えないようにします。

STEP2 求人条件を同じ単位にそろえる

給与が月給、年俸、時給で混在している状態では比較できません。

年収換算する場合は換算条件を統一し、固定残業代や賞与を含むかどうかも分けて記録します。

同じように「リモート可」も一括りにせず、

  • フルリモート
  • 週1〜2日出社
  • 原則出社だが一部利用可
  • 制度の記載だけで利用条件不明

といった形で分類します。

STEP3 平均値だけでなく中央値と比率を見る

給与は一部の高額求人に平均値が引っ張られることがあります。

そのため、競合求人群については下限・上限・中央値を併用します。

自社給与と競合中央値の差を見る場合は、次の式で確認できます。

給与差率=(自社給与の代表値-競合求人の中央値)÷競合求人の中央値×100

たとえば競合中央値が500万円、自社の比較対象額が450万円なら、差率はマイナス10%です。

勤務条件は金額ではないため、提供率で見ます。

条件提供率=該当条件を提示している競合求人件数÷比較対象求人件数×100

競合20件中12件がハイブリッド勤務を提示していれば、提供率は60%です。

STEP4 毎月のスナップショットを残す

現在の求人だけを更新していると、「いつ市場が変わったのか」が分かりません。

月ごとに、

  • 1月:競合給与中央値480万円
  • 2月:490万円
  • 3月:510万円

という形でスナップショットを保存します。

同様に、リモート勤務求人の割合、年間休日、フレックス制度、住宅手当なども時系列で記録します。

STEP5 自社の応募率と同じ期間で照合する

最後に、自社求人の応募率を同じ月単位で並べます。

応募率は、利用する媒体で分母を固定してください。

求人詳細閲覧数を取得できる媒体なら、

応募率=応募数÷求人詳細閲覧数×100

として継続します。

媒体によって表示回数や閲覧数の定義が違うため、複数媒体の数値をそのまま合算するより、同一媒体の時系列比較を優先した方が原因を追いやすくなります。

市場差と応募率を2軸で見ると原因を切り分けやすい

求人条件を定点観測する目的は、「競合より低い」と指摘することではありません。

市場側の変化と、自社応募率の変化が同じ時期に起きているかを見ることが重要です。

競合求人条件の変化と自社応募率の変化を2軸で整理し、確認すべき原因を4象限で示した図

競合条件と応募率を同じ期間で見ることで、求人条件を見直すべきケースと、原稿・媒体など別の原因を確認すべきケースを切り分けやすくなります。

市場側の変化 自社応募率 最初に確認すること
競合条件が改善 低下 自社の相対的な条件劣化
競合条件が改善 横ばい 今後の競争力低下リスク
競合条件が横ばい・悪化 低下 原稿、露出、媒体、ターゲットなど
競合条件が横ばい・悪化 上昇 自社施策や他要因による改善

たとえば4月から競合の給与中央値が上昇し、同時期から自社の応募率が低下したなら、給与差は確認すべき原因候補になります。

一方、競合条件がほぼ変わっていないのに応募率だけ低下している場合、給与を上げる前に求人原稿、求人露出、媒体選定、候補者ターゲットなどを確認した方がよいでしょう。

ただし、時系列で同時に変化しただけでは因果関係の証明にはなりません

季節性、広告出稿量、求人媒体の表示順位、企業認知、競合企業数なども応募数に影響します。定点観測は原因を断定するためではなく、調査すべき原因候補を絞るために使います。

求職者は給与だけを比較しているわけではない

企業側では「給与を上げれば応募が増える」と考えやすい一方、求職者は複数条件を組み合わせて求人を選びます。

前述のテレリモ総研調査では、給与に続いて勤務地・通勤時間が54.7%で重視されていました。またリモートワークの可否・頻度を重視した割合は、現在フルリモートで働く人では56.6%、ハイブリッド勤務では48.0%、フル出社では20.7%と差があります。

海外でも、フランダースの公共職業サービス利用者1,852人を対象とした選択実験で、通勤時間、リモートワークや勤務時間の柔軟性、雇用の安定性などが仕事選びの評価に関わることが示されています。日本とは労働市場や制度が異なるため数値を直接転用はできませんが、給与以外の条件を同時に比較する根拠の一つになります。

採用担当者が追うべきなのは「給与順位」ではなく、候補者が実際に見る条件の組み合わせで自社がどう見えるかです。

公的統計は競合求人の代わりではなく「市場全体の補助線」として使う

求人条件を比較するとき、公的な給与統計や求人倍率だけで自社条件を判断するのは避けましょう。

厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の賃金は男女計で月340.6千円となり、前年から3.1%増えています。調査は2025年6月分の賃金を対象としており、全国の主要産業を対象にしています。

ただし、これは実際に雇用されている労働者の賃金統計です。現在掲載されている競合求人の提示給与そのものではありません。

したがって、

公的統計=市場全体の動向確認

競合求人=候補者が現在比較できる選択肢

自社応募率=自社求人への実際の反応

という3層に分けて見ると判断しやすくなります。

地域・職種別では、ハローワークが提供する資料も利用できます。たとえばハローワーク新宿の「求人・求職バランスシート」では、職種ごとに求人の上限・下限賃金の平均、求職者の希望賃金、有効求人・求職者数が掲載され、2026年度も月次データが更新されています。

自社の採用エリアで同様の資料が利用できる場合、競合求人の実測値を補足する情報として活用できます。

市場差が見つかったら「条件変更」「情報改善」「比較対象修正」の3つに分ける

競合より条件が弱かったからといって、すべて待遇改善で解決する必要はありません。

市場差が見つかった後は、原因を3つに分けます。

競合求人との市場差を実際の条件差、情報の差、比較対象のズレの3種類に分類して改善方法を示す図

市場差が見つかっても、待遇そのものが原因とは限りません。実際の条件、求人上の情報、比較対象の設定を分けて確認します。

状態 対応
実際の条件差 給与、休日、リモート頻度が競合より低い 条件変更の可否を検討
情報の差 制度はあるが求人に書かれていない 求人情報を改善
比較対象のズレ 経験者求人と未経験求人を比較している ベンチマーク対象を再設定

特に注意したいのが情報の差です。

制度自体は競合と変わらないのに、「週2日リモート可能」「フレックスのコアタイム」「住宅手当の対象者」などが求人に書かれていなければ、候補者からは条件が存在しないように見えることがあります。

まず「制度がない」のか「制度はあるが伝わっていない」のかを切り分けてください。

求人条件ベンチマークの月次チェックリスト

月1回の定点観測では、次の順番で確認すると運用しやすくなります。

  1. 同じ職種・経験・勤務地で競合求人を検索したか
  2. 前月と同じ検索条件・媒体を使ったか
  3. 新規掲載・掲載終了を分けて記録したか
  4. 給与の下限・上限・固定残業代を分けたか
  5. 勤務地・転勤条件を記録したか
  6. リモート・フレックスの利用条件まで確認したか
  7. 福利厚生の有無だけでなく対象条件を確認したか
  8. 競合求人の中央値・条件提供率を更新したか
  9. 同じ期間の自社応募率を記録したか
  10. 市場差と応募率の変化を切り分けたか
  11. 公的な求人・賃金統計の変化も確認したか
  12. 条件変更・情報改善・比較対象修正のどれが必要か判断したか

一度作った競合比較表を上書きするのではなく、月ごとの状態を残すことが定点観測では重要です。

まとめ

求人条件の競争力は、自社求人だけを見ても判断できません。

給与、勤務地、勤務形態、福利厚生について、同じ候補者が比較すると考えられる求人群を固定し、同じ条件で継続的に観測することで、「自社が悪化したのか」「市場側が変わったのか」を切り分けやすくなります。

実務では、

競合求人の条件変化 → 自社との市場差 → 自社応募率 → 原因候補 → 改善判断

の順で確認します。

応募率が落ちたからすぐ給与を上げるのではなく、市場差が生じた項目を特定し、実際の条件差なのか、情報の見せ方なのか、比較対象のズレなのかを確認することが重要です。

採用市場が動く中で求人条件を適切に保つには、一度の競合調査ではなく、同じ基準で比較を続けられる定点観測の仕組みを作りましょう。

参考文献・データ元

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