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スタートアップの採用戦略|初期フェーズで優先すべき採用手法と体制

部署:経営者・責任者部署:人事・採用担当者レベル:実践
創業間もないオフィスの打ち合わせテーブルで、付箋を貼ったノートを前に、2人が採用について話し合っている手元

「採用に使える予算も時間も限られている。まず何から始めればよいのか」。創業から間もない時期に、経営者や、採用を兼務することになった人が最初に悩む点です。 結論から言うと、初期フェーズはすでに接点のある人に会いに行く手法を先に回し、体制は「経営者が主担当になり、現場の社員が加勢する」形から始める進め方を提案します。求人媒体や人材紹介は、要件が固まってから足す順序を勧めます。 この記事では、公開されている3つの解説記事の論点、2024年4月に変わった求人票の明示ルール、リファラル採用を扱った研究を確認したうえで、手法の優先順位と体制の組み方を整理します。出典を示していない手順や提案は、筆者の整理です。

結論:初期フェーズは、手法を「会える人から」、体制を「経営者が主担当」で組む

先に全体像を示します。次の表は、初期フェーズの手法を優先して回す順に並べた、筆者の整理です。フェーズの区切りは企業ごとに違うため、人数や資金額では区切っていません。「採用の経験者がまだいない」「知名度がほとんどない」状態を想定しています。

優先手法向く状況最初に決めること
1リファラル採用(社員や知人の紹介による採用)創業メンバーや社員の人脈に、求める人が含まれそうなとき誰に、どんな人を探していると伝えるか
2ダイレクトリクルーティング(企業から候補者へ直接連絡する手法)紹介だけでは候補者が足りないとき、特定の職種を探すとき連絡文で何を伝えるか
3カジュアル面談(合否を決めない相互理解の面談)1と2で接点ができた後、応募を迷っている人がいるとき合否を決めない前提と、話す内容
4SNSや自社サイトでの情報発信出会った候補者が、会社を調べに来るとき調べた人が不安を減らせる情報
5求人媒体・人材紹介求める人材像と選考基準が固まった後費用に見合う職種かどうか

表の番号は着手の目安です。面談の進め方や情報発信は、接点ができる前から並行して準備しておきます。採用候補者との接点や応募を増やす取り組みの全体像と、自社に合った選び方は、採用マーケティングと母集団形成の手段で整理しています。

体制は、経営者が主担当の段階から、現場が加勢する段階、専任者や外部の支援を使う段階へと広げます。

初期フェーズの採用が難しい理由

難しさの中心は、知名度が低いこと、採用に使える費用が限られること、採用を専門に担う人がいないことです。この3点は、スタートアップの採用戦略を扱った解説記事3本で、それぞれ次のように述べられています。

上場準備を扱う解説メディア(マネーフォワードが運営)は、創業期について「特に創業期のスタートアップは知名度や認知度が低い上」「採用コストが限定的で、大手求人媒体への出稿や人材紹介サービスの積極活用などが難しい」と述べています。

スタートアップ向けの情報サイトは、苦戦する理由として、知名度の低さ、賃金や福利厚生、採用リソースやノウハウの不足、人材のミスマッチの4点を挙げています。採用体制については「スタートアップでは、採用活動を専門とする人材が確保できていないケースが多いです。」と書いています。

経営者向けの情報サイトは、採用戦略の前に「採用テーマ」を決めることを勧めています。

大手と同じ手法を同じ規模で回せないため、限られた資源でも動かせる手法と、後から足す手法を分けて考えます。

手法を選ぶ前に決める3つのこと

どの手法を選ぶ場合でも、先に決めておくと手戻りが減る項目が3つあります。

誰に、何を伝えるか(採用テーマ)

経営者向けの情報サイトは、採用戦略の前に決めるべきものとして「採用テーマ」を挙げています。同記事は、採用テーマを定めると「採用担当者だけでなく、経営者や現場社員も同じ方向で候補者と向き合えるようになります。」と述べています。

人によって説明が違うと、候補者は何をする会社か分からなくなります。会社の目指す姿と、任せたい仕事の中身を、一文ずつ書き出しておきます。

求める人の要件と、妥協してよい点

上場準備の解説メディアは、採用の進め方を「要件の整理」「採用アプローチの検討」「評価プロセスの整理」の順に示し、「欲しい人材像の徹底的な具体化」と「求める人材像の妥協ポイントや優先順位付け」を採用のポイントに挙げています。

要件は、必須の条件と、あれば望ましい条件に分けて書きます。分けて書いておくと、どこまで妥協してよいかを面談の前に決められます。

誰が、何を基準に評価するか

同じ記事は、評価の場面について「仕事を主にする想定の人、役員、さまざまな立場の人を混ぜる」ことを勧めています。経営者だけで判断しない形にすると、一緒に働く人から見た適性も確認できます。評価の観点を紙に書き、面談のあとに同じ観点で記録します。

初期フェーズで優先する採用手法

リファラル採用:最初に回す理由と、限界

リファラル採用とは、社員や知人の紹介を通じて候補者と出会う手法です。紹介後の選考の扱いは、自社で決めて候補者にも伝えます。制度の作り方や報酬、法的な注意点は、リファラル採用の制度設計・報酬・法的注意点で整理しています。

経営者向けの情報サイトは、採用経路(チャネル)ごとの役割を整理した表で、リファラルを「信頼関係を使って候補者と接点を作る」手法とし、向いている採用を「創業期、カルチャーフィット重視」(カルチャーフィットは会社の価値観との相性)と書いています。フェーズ別の表でも、シード期(事業を立ち上げる初期の段階)の優先施策に「リファラル、カジュアル面談」を挙げています。上場準備の解説メディアも、「既につながりのあるところからターゲティング」することが重要で、「リファラル採用の潮流」はここに起因するとしています。

研究にも、リファラルの特徴を調べたものがあります。経済学の学術誌に2015年に掲載された論文は、コールセンター、トラック輸送、ハイテクの大企業9社の人事データを分析しました。要旨によると、紹介された応募者は、紹介のない応募者より採用されやすく、内定を受諾しやすい傾向がありました。生産性は多くの指標で同程度でしたが、紹介された人は離職する可能性が大幅に低く、賃金はわずかに高い傾向がありました。利益を算出できたコールセンターとトラック輸送では、紹介で入った人1人あたりの利益が大きく、その差は主に離職率の低さと採用コストの低さによるものとされています。

ただし、この研究の対象は大企業9社で、創業期のスタートアップを直接調べたものではありません。研究から言えるのは、「紹介は、採用コストと離職の面で有利になる場合がある」という範囲です。

リファラルには、構造上の限界もあります。紹介は、紹介する人の人脈の範囲に収まります。人脈に求める職種の人がいなければ、候補者は増えません。

ダイレクトリクルーティングとカジュアル面談:紹介で足りない部分を補う

リファラル採用とダイレクトリクルーティングから、合否を決めないカジュアル面談を経て応募・選考へ進む流れ。SNSや自社サイトの1ページが、調べに来た人の受け皿として面談に点線でつながる図

手法のつながりを、筆者が整理した図です。順序は目安です。

ダイレクトリクルーティングは、企業が候補者に直接連絡を取る採用手法です。求人を出して応募を待つ手法と違い、探している人に会社から声をかけられます。経営者向けの情報サイトは、近い手法として「スカウト」を挙げ、役割を「狙った人材へ直接接触する」と整理しています。スタートアップ向けの情報サイトも、スタートアップに適した手法の一つに挙げています。

知名度がなくても、連絡文の中身で興味を持ってもらえる余地がある点が強みです。ただし、連絡文の作成と返信の対応には時間が要るため、担当者を決めておきます。候補者の探し方や運用の改善は、ダイレクトリクルーティングの導入と運用で整理しています。

連絡文には、次の3点を入れます。

  1. なぜその人に連絡したのか(その人の経歴のどこに注目したか)。
  2. 会社が解こうとしている課題と、その人に任せたい仕事。
  3. 次の一歩(まずは話を聞いてもらう面談など)。

カジュアル面談は、この記事では合否を決めずに会社と仕事について話す面談として扱います。企業によっては選考の一部に含めるところもあるため、合否の場かどうか、面談の内容を選考に使うかどうかを、事前に候補者へ伝えます。話す内容は、会社の目指す姿、今の課題、任せたい仕事の3つを軸にすると、採用テーマと一致します。

SNSや自社サイトでの情報発信:候補者が調べに来たときの受け皿

連絡を受けた人や紹介された人が会社を調べに来る場合に備えます。上場準備の解説メディアは、デジタル施策として「SNSでのブランディングや転職サイトのSEO対策、ダイレクト広告など」を挙げています。経営者向けの情報サイトも、採用広報で候補者の不安を減らすことや、採用サイトを応募前の判断材料にすることを勧めています。

凝った採用サイトは要りません。最低限の準備例として、会社の事業内容、代表の考え、募集する仕事の中身と働き方が読める1ページを用意します。

求人媒体・人材紹介:要件が固まってから足す

求人媒体への掲載や人材紹介サービスは、候補者との接点を増やす手段ですが、費用が発生します。上場準備の解説メディアが指摘するとおり、創業期は採用コストが限られ、積極的に使うことが難しい手法です。

この2つは、やらないのではなく後から足す手法です。まずリファラルとダイレクトリクルーティングで要件を磨き、費用をかけても採りたい職種が明確になってから足す順序を提案します。求人媒体やスカウトなど、手法ごとの予算の配分は、採用チャネルの選び方と予算の配分で整理しています。

体制の組み方:経営者から始め、現場と専任者に広げる

採用体制が、経営者が担う段階、現場が加勢する段階、専任に切り替える段階へと階段状に広がる図。切り替えの目安は、週あたりの採用対応時間、面談の待ち件数、本来の業務への影響を記録して毎月見直すこと

手法の優先順位と合わせて、体制を3つの段階で考えます。段階の区切りは人数ではなく、採用の仕事が誰の何割を占めているかで判断します(筆者の整理)。切り替えの目安として、週あたりの採用対応時間、面談の待ち件数、本来の業務への影響を記録し、毎月見直します。

段階主担当現場の関わり外部の使い方
1. 経営者が担う経営者紹介の依頼と、面談への同席使わない、または相談程度
2. 現場が加勢する経営者または兼務の担当者面談、評価、情報発信を分担一部の工程を依頼する
3. 専任に切り替える専任の採用担当者面談と評価に協力不足する機能を補う

段階1:経営者が主担当になる

創業期は、会社の方向性を最も話せるのが経営者です。経営者が面談から判断まで担うと、採用テーマのずれも起きにくくなります。

ただし、経営者が採用に時間を取られ続けると本業が止まるため、採用に使う時間の上限を週あたりで決めておきます。

段階2:現場の社員が加勢し、評価者を複数にする

採用が増えてくると、経営者だけでは面談が回らなくなります。ここで現場の社員に面談と評価の一部を任せます。面接官ごとに説明がばらつかないよう、採用テーマと評価の観点を共有しておきます。評価者を複数にすることは、上場準備の解説メディアが勧める「さまざまな立場の人を混ぜる」考え方にも合います。

面談の時間を業務時間として扱い、記録の手順も決めないと、一部の人に負担が集まります。

段階3:専任者の採用、または外部の支援を検討する

採用の仕事が日常業務を圧迫するようになったら、専任者を置くか、外部の支援を使うかを検討します。スタートアップ向けの情報サイトは、スタートアップは採用の専門知識やリソースが不足していることが多いとして、外部の採用支援サービスの活用を一つの方法に挙げています。

外部に任せる範囲は、候補者と直接話す工程を自社に残し、募集の運用など手順が決まっている工程から任せる考え方があります。内製・外注・ハイブリッドの判断基準は、採用改善の体制構築と内製・外注の判断基準で整理しています。

求人票・募集の際に外せない制度面:2024年4月の変更

ハローワークへの求人申込みで、2024年4月1日以降に求人票へ明示が求められる3点を並べた図。従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

東京ハローワークとハローワーク新発田の案内にもとづく整理です。ハローワーク以外の経路で募集する場合は、厚生労働省や管轄の労働局の最新の案内を確認してください。

初期フェーズでも、募集の際に守る決まりがあります。ハローワークに求人を申し込む場合、2024年4月1日以降の申込みから、求人票に次の3点の明示が求められています。東京ハローワークのページ(東京労働局職業安定部が運営)では、次のとおり案内しています。

  1. 従事すべき業務の変更の範囲
  2. 就業場所の変更の範囲
  3. 有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

ハローワーク新発田(新潟労働局)のページは、3つ目に通算契約期間または更新回数の上限が含まれると示したうえで、「変更の範囲」を「雇入れ直後だけでなく、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約期間中での変更の範囲」と説明しています。

スタートアップは事業の変化に合わせて仕事の中身が変わりやすいため、「今は営業だが、将来は新規事業の担当になる可能性がある」といった見込みを、募集の段階で整理しておきます。

なお、滋賀労働局のページは、労働契約を結ぶときと、有期労働契約を更新するときにも、就業場所と業務の変更の範囲を明示する決まりになったと案内しています。ハローワーク以外の経路で募集する場合の扱いや、自社に必要な明示事項の詳細は、厚生労働省や管轄の労働局の最新の案内で確認してください。

最初の90日の進め方

手法と体制を決めたら、90日程度の期間で回して、結果を見直します。以下は筆者の整理で、期間は目安です。

期間やること確認すること
最初の2週間採用テーマ、必須と妥協してよい要件、評価の観点を書き出す。経営者が主担当になる経営者と現場で、同じ説明ができるか
3週目から6週目リファラルの依頼を出す。ダイレクトリクルーティングの連絡文を送る。調べに来た人向けの1ページを用意する何人と会えたか、連絡文の返信が来たか
7週目から12週目面談を回し、評価の観点で記録する。現場の社員を評価者に加える評価がそろっているか、時間が圧迫されていないか
90日後どの経路で会えた人が最も合っていたかを見る。足りなければ求人媒体や外部の支援を検討する次の90日で優先する手法

自社の過去の実績がないうちは数字の目標を置きにくいため、最初は「会えた人数」「面談した人数」「入社の意思が固まった人数」を経路ごとに記録します。

この記事から判断できる範囲

まず、手法の優先順位と体制の段階は、3つの解説記事の論点を踏まえた筆者の整理で、特定の調査で優劣が検証されたものではありません。解説記事3本は、いずれも企業が運営するメディアです。

次に、リファラル採用の研究は大企業9社が対象で、要旨の範囲で引用しています。創業期のスタートアップで同じ結果になるかは確認できていません。

最後に、手法ごとの費用や応募数・採用率の数値の目安は示していません。紹介の報奨金の払い方、外部サービスとの契約、株式報酬を含む報酬の設計は、この記事では扱いません。

まとめ

初期フェーズは、すでに接点のある人に会う手法から回し、体制は経営者が主担当の形から始めます。

まずは、採用テーマ、必須の要件、評価の観点の3つを紙に書き出し、経営者と現場で同じ説明ができるかを確認してください。

参考文献・データ元

この記事で参照した情報を確認できます。

‹ 親記事: 採用マーケティングとは何か。母集団形成の手段の見取り図と、自社に合った選び方の考え方

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