「求人を出しているのに応募が集まらない」という悩みの多くは、実は「応募を集める前段階の設計」が欠けていることに原因があります。この設計にあたる考え方が、採用マーケティングであり、その中心的な目的が母集団形成です。厚生労働省が2026年7月31日に公表した一般職業紹介状況(2026年6月分)によると、有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で前月より0.01ポイント上昇し、新規求人倍率も2.16倍と前月より0.05ポイント上昇しました。求人を出す企業の数に対して、求職者の数が相対的に少ない状態が続いているということです。こうした局面では、求人媒体を一つ出稿すれば自然に応募が集まる、という状態は前提にできません。どのチャネルで、誰に、どう働きかけて母集団を形成するかを、体系的に設計する必要があります。本記事では、母集団形成という取り組み全体を俯瞰し、手段の全体像、自社に合った選び方の考え方、そして「量」と「質」のバランスという、母集団形成につきまとう根本的な問いを整理します。
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母集団形成とは何か
母集団形成とは、自社の採用活動に応募してくれる可能性がある人(候補者)を、計画的に集める取り組みを指します。統計学で使われる「母集団」という言葉を採用の文脈に転用したもので、単に応募数を増やすことではなく、最終的に採用したい人数から逆算して、選考のどの段階で何人が必要かを見積もり、その人数を確保するための入り口を設計することが本来の意味です。
この母集団形成を、行き当たりばったりの求人出稿ではなく、マーケティングの考え方に基づいて計画的に行う活動が採用マーケティングです。ターゲットとなる人材像を具体化し、そのターゲットがどのチャネルにいて、どのようなメッセージに反応するかを設計したうえで、複数の手段を組み合わせて実行します。求人媒体への掲載、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用(社員紹介)など、個々の手段はいずれも母集団形成を構成する部品であり、採用マーケティングはそれらの部品をどう組み合わせるかを決める、より上位の考え方だと捉えると全体像が整理しやすくなります。

なぜ今、母集団形成の”設計”が求められているのか
母集団形成を場当たり的な求人出稿で済ませられなくなっている背景には、労働市場側の構造変化があります。
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新卒採用市場では、株式会社リクルート/リクルートワークス研究所が2026年4月23日に発表した「大卒求人倍率調査(2027年卒)」によると、大卒求人倍率は1.62倍で、2026年卒の1.66倍から2年連続で低下しました。求人倍率としては低下傾向にあるものの、同調査では初任給が月額23.7万円と4年連続で増加しており、企業の採用意欲そのものは高い水準が続いていると分析されています。求人倍率の数字だけを見て「採用しやすくなった」と早合点せず、初任給の上昇に見られるような企業間の待遇競争の実態も合わせて捉える必要があります。
中途採用市場でも、従来型の「求人を出して待つ」設計だけでは母集団の質を確保しにくくなっている実態が、企業の採用手法の変化に表れています。東京商工リサーチが2026年6月1日から8日にかけて実施した「企業の『採用』に関するアンケート調査」(有効回答6,475社)によると、リファラル採用(社員紹介による採用)を導入している企業は全体の49.2%にのぼり、大企業では60.4%と6割を超えています。さらに同調査では、従業員の定着率が最も高い採用方法として「リファラル採用」が18.5%で最上位に挙げられ、ハローワーク経由の中途採用(12.1%)や新卒採用(10.4%)、転職エージェント経由(5.4%)を上回りました。求人媒体一本足の母集団形成から、複数の手段を組み合わせ、定着率まで見据えた設計へと、企業側の意識が移り変わりつつあることがうかがえます。
母集団形成の手段、全体像(見取り図)
母集団形成の手段は数多く存在しますが、大きく「マス型」と「ワントゥワン型」の2つに整理すると全体像をつかみやすくなります。
マス型は、企業が情報を発信し、それを見た求職者からの応募を待つ形の手段です。代表的なものに、求人サイトへの掲載やクリック課金型の求人検索エンジン、人材紹介会社への依頼、ハローワークの活用、自社の採用サイトやオウンドメディアでの情報発信、SNSを使ったソーシャルリクルーティング、合同企業説明会などのイベント出展があります。一度に多くの求職者へリーチできる一方、応募者の母数は増えても自社が求める人材像とのマッチ度が下がりやすいという特徴があります。
このうち求人媒体は、掲載期間で費用が発生する「掲載型」、採用決定時に費用が発生する「成功報酬型(人材紹介)」など、料金体系によってさらに複数のタイプに分かれ、自社の採用ターゲットや予算に応じた選び方が別途必要になります。求人媒体のタイプ別の違いと具体的な選定ステップは、掘り下げた内容を別記事で解説していますので、媒体選びそのものを詳しく知りたい場合はそちらをあわせてご確認ください。
ワントゥワン型は、企業側が個々の候補者に向けて直接アプローチする形の手段です。代表的なものに、企業が候補者データベースから条件に合う人にスカウトを送るダイレクトリクルーティング、社員の知人・友人を紹介してもらうリファラル採用、他社で活躍する人材に個別に声をかけるヘッドハンティング、退職した元社員に再入社を働きかけるアルムナイ採用があります。マス型に比べて一件あたりの工数はかかるものの、自社が求める要件に合う人に狙って接触できるため、マッチ度を高めやすいという特徴があります。
母集団形成では、この「マス型」と「ワントゥワン型」のどちらか一方だけを選ぶのではなく、採用したいポジションの性質に応じて組み合わせることが基本的な考え方になります。急いで一定数の応募を集めたい職種にはマス型、専門性が高く母数の少ない職種にはワントゥワン型、というように使い分ける発想が土台になります。

自社に合った手段をどう選ぶか
数ある手段の中から自社に合うものを選ぶ際に、媒体の知名度や評判だけで判断すると、ミスマッチが起こりやすくなります。判断の軸として、次の3つを先に数値化してから手段を当てはめる順序が有効です。
第一に、採用したい人数と職種です。母数が多く求められる職種なのか、専門性が高く少数精鋭で決めたい職種なのかによって、マス型を軸にするかワントゥワン型を軸にするかの初期方針が変わります。第二に、1人あたりにかけられる採用予算です。掲載型の求人媒体は採用の有無にかかわらず費用が発生し、成功報酬型は採用決定時にまとめて費用が発生するというように、手段ごとに費用が発生するタイミングが異なるため、予算の使い方に合わせた選択が必要になります。第三に、採用完了までに使える期間と、社内で採用活動に割ける工数です。ダイレクトリクルーティングやリファラル採用は、スカウト文面の作成や社員への協力依頼など、運用に一定の人手と時間がかかるため、片手間で運用できる体制かどうかを見極める必要があります。
この3つを先に整理したうえで、マス型・ワントゥワン型それぞれの手段を組み合わせる設計に落とし込むことが、母集団形成における選び方の基本的な考え方です。手段を先に決めてから予算や体制を後付けで合わせようとすると、運用が続かなくなったり、想定より費用がかさんだりする原因になります。
本記事で扱うのは、採用人数・職種・予算・期間・社内工数を踏まえて「どの採用チャネルを選ぶか」という基本判断までです。求人媒体・スカウト・人材紹介・SNSなどへ予算を何割ずつ配分するか、職種別に採用数をどう割り当てるか、月次実績を見て配分をどう組み替えるかといった予算設計の実務は「N-0012 採用チャネルの予算配分は何割?求人媒体・スカウト・人材紹介・SNSの設計方法」で詳しく扱います。

母集団の「量」と「質」、どちらを優先すべきか
母集団形成では、「応募数(量)」と「自社に合う人材の割合(質)」のどちらを優先すべきかという問いが、常につきまといます。
量を重視する考え方は、応募数を増やせば、その中から自社に合う人材が見つかる確率も上がるという発想です。急募のポジションや、母数がある程度必要な職種では合理的な考え方ですが、応募数が増えるほど書類選考や面接にかかる工数も増え、対応が追いつかなくなると、本来採用したかった候補者への対応が遅れて機会損失につながるという副作用があります。
一方、質を重視する考え方は、応募者数は少なくても、自社の求める人材像に近い人からの応募・エントリーを優先する発想です。前述の東京商工リサーチの調査で、リファラル採用の定着率が他の採用方法を上回る結果が出ていたように、社員の紹介を通じて自社の社風や実態を理解したうえで応募してくる母集団は、入社後のミスマッチが起こりにくい傾向があります。ただし、質を重視しすぎると、そもそも母集団の絶対数が不足し、採用したい人数を確保できないリスクもあります。
したがって、量と質はどちらか一方を選ぶものではなく、採用したいポジションごとに優先順位を使い分けるべきものだと捉えるのが実務的です。急ぎで一定数を確保したいポジションには量を重視したマス型の手段を、定着率を重視したい重要ポジションには質を重視したワントゥワン型の手段を軸にする、といった組み合わせが、母集団形成における量と質のバランスの取り方になります。
母集団形成でよくある誤解
母集団形成に取り組む際、よく見られる誤解が2つあります。
1つ目は、「有名な求人媒体に出せば応募が集まる」という思い込みです。媒体の知名度と、自社の採用ターゲットがその媒体を利用しているかどうかは別の問題であり、知名度だけで媒体を選ぶと、応募数はあってもマッチ度の低い母集団しか形成できないことがあります。
2つ目は、「一つの手段に絞って様子を見る」という進め方です。マス型・ワントゥワン型にはそれぞれ得意・不得意があるため、一つの手段だけに依存すると、その手段が抱える弱点(マス型ならマッチ度の低さ、ワントゥワン型なら運用工数の重さ)がそのまま母集団形成全体の弱点になってしまいます。複数の手段を組み合わせ、実際の応募状況を見ながら配分を調整していく前提で取り組むことが、遠回りに見えて確実な進め方になります。

母集団形成の基本用語集
母集団形成とは、自社の採用活動に応募してくれる可能性がある候補者を、採用人数から逆算して計画的に確保する取り組みを指します。
採用マーケティングとは、母集団形成をマーケティングの考え方に基づいて設計・実行する活動を指します。ターゲット人材像の明確化、チャネル選定、メッセージ設計などが含まれます。
マス型とは、企業が情報を発信し、求職者からの応募を待つ形の母集団形成手段の総称です。求人媒体、人材紹介、自社採用サイト、SNS、イベント出展などが該当します。
ワントゥワン型とは、企業側が個々の候補者に直接アプローチする形の母集団形成手段の総称です。ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、ヘッドハンティング、アルムナイ採用などが該当します。
ダイレクトリクルーティングとは、企業が候補者データベースにアクセスし、条件に合う人材に直接スカウトを送る採用手法を指します。
リファラル採用とは、自社の社員に知人や友人を紹介してもらう採用手法を指します。紹介者を通じて社風が事前に伝わりやすく、定着率が高い傾向があります。
アルムナイ採用とは、退職した元社員に再入社を働きかける採用手法を指します。
有効求人倍率とは、公共職業安定所(ハローワーク)に登録された求職者1人あたりに、何件の求人があるかを示す指標です。厚生労働省が毎月公表しており、労働市場全体の需給を示す代表的な指標として使われます。
まとめ
母集団形成とは、採用したい人数から逆算して候補者を計画的に確保する取り組みであり、その設計をマーケティングの考え方で行うのが採用マーケティングです。有効求人倍率が高止まりし、大卒求人倍率も企業の採用意欲を映して底堅く推移する中、求人を出すだけで応募が集まる前提はもはや成り立ちません。母集団形成の手段は、企業が発信し応募を待つ「マス型」と、企業側から個別に働きかける「ワントゥワン型」に大別でき、それぞれに得意・不得意があります。自社に合った手段は、採用人数・予算・運用体制を先に数値化したうえで選ぶこと、そして「量」と「質」はポジションごとに優先順位を使い分けるものだと捉えることが、母集団形成を場当たり的な求人出稿で終わらせないための土台になります。
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