内定を出した後、候補者が承諾するまでに何を調べているかは、応募経路や採用管理システムだけでは分かりません。候補者は給与・勤務地などの条件を再確認し、口コミやSNSで職場の実態を確かめ、複数社を比較し、近年は生成AIに企業の評判や待遇を質問することもあります。
重要なのは「どの媒体を見たか」だけではなく、「何を確かめるために、どの順番で調べ、情報を見た後に入社意向がどう変化したか」を調査することです。
この記事では、内定後から承諾前までの再探索行動を可視化し、採用ブランディングや内定辞退対策へつなげる方法を整理します。
内定承諾前の企業研究は「条件確認・実態確認・他社比較」の最終確認と考える
内定承諾前の企業研究は、応募前に行った企業研究を単純に繰り返すものではありません。候補者が「この会社へ入社してよいか」を決めるため、条件、仕事内容、職場の実態、他社との差を改めて確認する段階と考えると調査しやすくなります。
求職者が見る外部情報と採用上の評判管理の全体像は、採用ブランディングと口コミ・評判対策で整理しています。
エン・ジャパンが4,513人を対象に実施した2024年の調査では、社員口コミを見る人から「内定承諾前に見る理由」として、複数社から内定を得た際の条件比較や、承諾前にできるだけ多くの情報を持っておきたいという回答が確認されています。また、口コミをきっかけに不安を感じても、85%はその内容を企業へ質問していません。企業から見ると、候補者が外部情報で不安を強めていても表面化しない可能性があります。
2026年5月にワークポートが全国の20~40代308人を調査した結果では、83.8%が転職活動でSNS・口コミを確認すると回答しました。確認目的は「職場の実態把握」77.1%、「リスク確認」65.1%、「公式情報の裏付け」51.6%でした。SNS・口コミを確認する人のうち2.3%は、そこから得た情報を理由に内定後に辞退した経験があると回答しています。
したがって、人事が見るべきなのは「内定承諾率」だけではありません。承諾前に候補者が何を再確認し、どこで不安を持ち、何と比較したのかまで確認する必要があります。
候補者が承諾前に確認する情報を6つの接点に分ける
調査では、候補者が接触し得る情報を最初に整理します。少なくとも、条件情報、社員・職場情報、口コミ、SNS、検索結果、AI検索の6領域を対象にすると抜けを減らせます。
口コミの論点が職種によって違う場合は、採用口コミを職種別に分析する方法で、営業・エンジニア・現場職ごとの評価テーマと応募影響を分けて確認できます。

内定承諾前の候補者は、企業から渡された条件だけでなく、口コミ・SNS・検索結果・AIなど複数の情報を横断して最終判断する可能性があります。
| 情報接点 | 主に確認される内容 | 企業側で確認したいこと |
|---|---|---|
| 求人票・オファー条件 | 給与、勤務地、職種、勤務時間、福利厚生、配属 | 面接中の説明と最終条件に差がないか |
| 採用サイト・社員情報 | 仕事内容、1日の流れ、社員像、キャリア、社風 | 抽象的な魅力だけでなく具体情報があるか |
| 社員口コミサイト | 残業、評価、人間関係、給与、退職理由 | 同じ不満が繰り返されていないか |
| SNS | 社員の様子、企業文化、炎上、日常の雰囲気 | 公式説明と印象が食い違っていないか |
| Google等の検索結果 | ニュース、評判、口コミ、過去情報 | 古い情報や現在と異なる情報が上位にないか |
| 生成AI・AI検索 | 企業評判、待遇相場、他社比較、向き不向き | AIが何を根拠に自社を説明しているか |
SNSについては、No Companyが19~22歳の就活生を対象に2023年6月と2024年3月を比較した調査で、SNSによる情報収集を行う割合が「情報収集期」より、内定承諾などを行う「意思決定期」で6.3ポイント増えました。企業情報をSNSで検索する割合も3.6ポイント増えています。意思決定期には、福利厚生など詳細な情報へのニーズも高まっていました。
AIも無視できない接点です。株式会社Iteraが2026年8月に公表した調査では、過去1年以内に転職活動を行った880人の26.02%がChatGPT・Gemini・Copilotなどの生成AIへ直接質問して企業情報を集めていました。AI Overviewを含めると35.7%がAI経由で企業情報に接触し、AI利用者が調べた内容では「企業の事業内容・評判」59.24%、「年収・待遇の相場」53.82%が上位でした。なお、この調査は転職活動全体が対象であり、内定承諾前だけの利用率を示すものではありません。
調査では「何を見たか」ではなく7つの行動を時系列で聞く
候補者アンケートで「口コミを見ましたか」「SNSを使いましたか」だけを聞いても、改善場所は特定できません。
承諾前の行動を調べる場合は、次の7項目を一連の流れとして取得します。
- 内定を受けた直後、最初に何を確認したか
- なぜその情報を確認しようと思ったか
- 実際にどのサイト・SNS・AIなどを使ったか
- どのような検索語・質問を使ったか
- そこでどのような情報を見つけたか
- 自社と何を比較したか
- その情報を見た後、入社意向が上がった・変わらなかった・下がったのどれか

「口コミを見たか」だけではなく、確認した理由から情報発見、他社比較、入社意向の変化まで時系列で取得すると、改善すべき接点を特定しやすくなります。
例えば、
「内定通知を受けた」
→「提示年収が妥当か気になった」
→「会社名+年収で検索した」
→「口コミサイトを確認した」
→「評価制度への不満を複数見つけた」
→「競合企業の口コミも確認した」
→「入社意向が下がった」
まで取得できれば、「口コミが見られた」ではなく、何が検索を発生させ、どの情報が比較材料になったかまで分かります。
採用研究でも、候補者の企業への評価は一度決まって終わるものではありません。Carlessの縦断研究では193人の応募者を選考前から就職先決定後まで追跡し、仕事との適合感などと企業への魅力・オファー受諾意向の関係が選考段階によって変化することが示されています。承諾前まで候補者へ十分な仕事内容の情報を提供する重要性が示唆されています。
調査方法1|内定承諾者と辞退者へ同じアンケートを行う
最初に実施しやすいのは、内定承諾者と辞退者へ共通のアンケートを行い、行動の違いを比較する方法です。
質問は「辞退理由」だけに限定しません。以下のように、意思決定までの情報探索を聞きます。
| 質問項目 | 質問例 |
|---|---|
| 再調査の有無 | 内定後、当社について改めて調べましたか |
| 調べたテーマ | 給与、仕事内容、勤務地、働き方、社風、社員、評判など何を調べましたか |
| 接点 | 検索、口コミ、SNS、採用サイト、AI、知人など何を使いましたか |
| 検索・質問内容 | 実際に検索した言葉やAIへの質問を覚えている範囲で教えてください |
| 比較 | 他社と比較した項目は何でしたか |
| 情報の食い違い | 面接・公式サイトと外部情報で違いを感じた点はありましたか |
| 意向変化 | 情報を見た後、入社意向はどう変わりましたか |
| 未解決の不安 | 最後まで判断できなかったことは何でしたか |
| 最終決定 | 承諾・辞退を決める際に最も重視した情報は何でしたか |

承諾者と辞退者に同じ質問をすることで、最終結果だけではなく、承諾前の情報探索や比較行動の違いを確認できます。
ポイントは、承諾者だけを調査しないことです。
承諾者だけでは「問題があったが最終的には入社したケース」は分かっても、情報探索の途中で他社へ移った候補者の特徴が分かりません。反対に辞退者だけでは、同じ口コミや不安を見ても承諾した人との違いを比較できません。
ただし、回答を無理に求めると本音が得にくくなります。匿名回答を選べるようにし、採否評価には利用しないことを明示すると運用しやすくなります。
調査方法2|インタビューでは「次に検索した理由」を掘り下げる
アンケートで特徴的な行動が見つかったら、候補者へのインタビューで検索行動の前後関係を確認します。
特に聞きたいのは、「なぜ次の情報源へ移動したのか」です。
例えば採用サイトを見た後に口コミサイトへ移動した場合でも、
- 残業時間が採用サイトに書かれていなかった
- 面接官の説明を別の情報で確認したかった
- 他社と給与を比較したかった
- 「風通しが良い」という説明が抽象的だった
- 家族から評判を確認するよう言われた
では改善対象が違います。
口コミの影響についても、「悪い口コミがあったから辞退した」と単純化しないことが重要です。
Evertzらが386人を対象に行った研究では、企業口コミサイトの情報は、口コミの内容だけでなく、主張の質や情報源の専門性などによって企業魅力度への影響が変わりました。
Stockmanらの実験と実際の求職者へのインタビューでも、ネガティブな口コミの影響は一律ではなく、候補者がその企業について事前に持っていた知識や、他の情報との一致、追加確認の有無などによって異なることが示されています。
そのためインタビューでは、「何を見たか」と同時に「それ以前に何を信じていたか」「どの情報と食い違ったか」を聞くことが重要です。
調査方法3|候補者と同じ条件で検索・口コミ・SNS・AIを監査する
候補者への調査と並行して、企業側でも候補者が触れる外部情報を確認します。
最低限、次の順番で確認します。
- 会社名で検索する
- 「会社名+評判」「会社名+口コミ」「会社名+年収」などで検索する
- 主要な転職・就職口コミサイトを確認する
- 公開されているSNS投稿を確認する
- 採用サイトと外部情報を比較する
- 生成AIへ代表的な質問を行う
AI検索では、例えば次のような質問を固定して確認します。
- 「○○社へ入社する前に確認すべき点を整理してください」
- 「○○社の働き方や評判について、肯定・否定の両方の情報を整理してください」
- 「○○社と△△社を、給与・仕事内容・勤務地・働き方・成長環境で比較してください」
記録するのは回答内容だけではありません。
確認日、使用したAI、質問文、回答、参照された情報源、古い情報、事実と異なる説明、回答できなかった項目をセットで残します。
AIの回答はサービスや時期によって変化するため、1回の回答を「候補者が必ず見ている情報」と扱ってはいけません。候補者アンケートで実際にAI利用が確認された場合に、その質問傾向と企業側のAI監査を照合します。
調査結果は「接点×確認テーマ×意向変化」の表にまとめる
収集した回答は、単純な辞退理由一覧ではなく、次の3軸で整理すると改善につながります。

調査結果は、情報接点だけで集計せず、「何を確認したか」「入社意向がどう変わったか」と組み合わせることで、改善優先順位を決めやすくなります。
接点
検索、口コミ、SNS、採用サイト、社員面談、AIなど。
確認テーマ
給与、仕事内容、勤務地、働き方、評価、社風、人間関係、成長、将来性など。
意向変化
上がった、変わらない、下がった。
例えば次のように集計します。
| 接点 | 確認テーマ | よく見られた情報 | 意向変化 | 改善候補 |
|---|---|---|---|---|
| 口コミ | 残業・働き方 | 過去の長時間労働に関する投稿 | 下がる回答が集中 | 現在の実績を採用サイトで具体化 |
| 採用サイト | キャリア | 配属後のキャリア例が不足 | 変わらない | 若手社員のキャリア事例を追加 |
| 社員面談 | 社風 | 実際のチームの話 | 上がる回答が多い | 同職種社員との面談を増やす |
| AI検索 | 給与・評判 | 古い外部情報を参照 | 下がる可能性 | 最新の一次情報を公開し監査 |
改善優先順位は、「回答数が多い」「入社意向を下げる」「企業側で改善可能」の3条件が重なる項目から決めます。
例えばネガティブ口コミの存在そのものより、「面接では残業が減ったと説明されたが、現在の数値を確認できる公開情報がないため古い口コミを信じた」という回答が複数あるなら、改善対象は口コミ削除ではなく、現在の働き方を裏付ける情報不足です。
「口コミを見たから辞退した」と因果関係を決めつけない
調査結果を分析するときは、情報接触と辞退の因果関係を分けて考える必要があります。
候補者が口コミを見た後に辞退していても、実際の主因が給与、勤務地、他社への志望度、仕事内容だった可能性があります。
マイナビの2026年卒企業調査では、企業が把握した内定辞退理由の最多は「より志望度の高い企業から内定が出た」49.8%でした。希望職種17.7%、希望勤務地15.1%、給与条件11.4%も挙がっています。外部情報だけで内定辞退が決まるとは限りません。
したがって、
「口コミ閲覧」
→「不安が発生」
→「社員面談でも解消できなかった」
→「他社との比較で劣後」
→「辞退」
まで確認できて初めて、口コミが意思決定のどこに関係したかが見えてきます。
最新の研究でも、企業の採用情報は個々のメッセージだけでなく、複数接点での一貫性が重要とされています。2026年に米国の求職者191人を2時点で調査したKanwalとVan Hoyeの研究では、雇用主としての情報の独自性と一貫性が、企業を追求する意向などと関連していました。
人事は一つの悪い情報だけを見るのではなく、候補者が複数接点を通じてどのような企業像を作ったかを確認する必要があります。
調査結果を採用ブランディング改善へつなげる
調査の目的は、候補者を監視することではありません。候補者が意思決定に必要としているのに、企業側が十分に提供できていない情報を見つけることです。
結果に応じて、改善方法を変えます。
| 調査で見つかった問題 | 主な改善 |
|---|---|
| 給与や配属条件が分かりにくい | オファー条件を項目別に明文化する |
| 仕事内容を具体的に想像できない | 配属予定部署や同職種社員との面談を用意する |
| 古い口コミと現在の状況が違う | 現在の制度・数値・改善内容を一次情報として公開する |
| 公式情報と社員の話が食い違う | 採用担当・面接官・現場の説明内容をそろえる |
| SNSだけで社風を判断されている | 日常の仕事や社員の実態が分かる情報を増やす |
| AIが古い情報を参照している | 正確で更新日の分かる公開情報を増やし、定期確認する |
| 候補者が不安を質問できていない | オファー面談で「懸念点を確認する時間」を明示的に設ける |
採用ブランディングは、良い印象だけを増やす活動ではありません。
候補者が最後の意思決定で確認している情報を把握し、求人、面接、採用サイト、社員の説明、口コミ、検索結果、SNS、AI検索で見える企業像の食い違いを減らすことが重要です。
内定承諾前検索調査のチェックリスト
まずは直近3~6か月の内定者・辞退者から確認を始めます。
- 内定後に企業情報を再検索したか聞いている
- 再検索した理由を聞いている
- 検索語やAIへの質問を確認している
- 口コミ・SNS・検索・AIを別々に記録している
- 他社と比較した項目を確認している
- 情報を見た後の入社意向変化を確認している
- 承諾者と辞退者を比較している
- 公式情報と外部情報の食い違いを確認している
- 外部情報だけで辞退原因を断定していない
- 調査結果を採用サイト・面談・条件説明の改善へ反映している
- 改善後も同じ質問で継続測定している
すべてを一度に調べる必要はありません。
まずは「承諾前に何を再確認したか」「その理由は何か」「見た後に入社意向がどう変わったか」の3点から始めれば、企業側から見えていなかった情報探索を捉えやすくなります。
まとめ
内定承諾前の候補者は、求人票や採用サイトだけを見て意思決定しているとは限りません。条件を再確認し、口コミで職場の実態を調べ、SNSや検索結果で企業の評判を確認し、他社と比較し、生成AIへ評判や待遇を質問することもあります。
企業側が把握すべきなのは、「何を見たか」だけではなく、何を確かめようとして、どの接点へ移動し、情報を見た後に入社意向がどう変化したかです。
内定承諾者と辞退者へのアンケート、代表者へのインタビュー、検索・口コミ・SNS・AIの外部情報監査を組み合わせ、「接点×確認テーマ×意向変化」で整理してください。
そこで見つかった情報不足や食い違いを、条件説明、社員面談、採用サイト、情報発信へ反映することで、内定承諾率だけでは見えなかった採用ブランド上の課題を改善できます。
参考文献・データ元
- エン・ジャパン「社会人4500人に聞いた『転職活動時のクチコミ閲覧』実態調査」、2024年2月20日。エン転職ユーザー4,513人を対象。口コミ閲覧のタイミング、内定承諾前の確認理由、不安情報への質問行動を参照。 調査ページ
- 株式会社ワークポート「転職活動でのSNS・口コミ利用に関する調査」、2026年6月4日。2026年5月21~28日、全国の20~40代308人を対象。SNS・口コミの利用目的、信頼度、離脱経験を参照。 調査ページ
- 株式会社No Company「25卒就活生の『情報収集期』と『意思決定期』におけるSNS活用実態」、2024年7月23日。全国の19~22歳の大学生を対象に、2023年6月241人、2024年3月250人を調査。意思決定期のSNS利用と情報ニーズを参照。 調査ページ
- 株式会社Itera「転職活動者の26%が生成AIで企業情報を収集」、2026年8月27日。全国5,000人のうち過去1年以内に転職活動を行った880人を分析。生成AI・AI Overviewの企業情報収集利用を参照。 調査ページ
- マイナビキャリアリサーチLab「2026年卒企業新卒内定状況調査」、2025年11月7日。企業が把握した内定辞退理由を参照。 調査ページ
- Carless, S. A. (2005). “Person-job fit versus person-organization fit as predictors of organizational attraction and job acceptance intentions: A longitudinal study.” Journal of Occupational and Organizational Psychology, 78(3), 411–429. 対象193人。DOI: 10.1348/096317905X25995.
- Evertz, L., Kollitz, R., & Süß, S. “Electronic word-of-mouth via employer review sites – the effects on organizational attraction.” The International Journal of Human Resource Management, 32(16), 3428–3457. 対象386人。DOI: 10.1080/09585192.2019.1640268.
- Stockman, S., Van Hoye, G., & da Motta Veiga, S. (2020). “Negative word-of-mouth and applicant attraction: The role of employer brand equity.” Journal of Vocational Behavior, 118, 103368. 実験276人、求職者32人へのインタビューを含む。DOI: 10.1016/j.jvb.2019.103368.
- Kanwal, H., & Van Hoye, G. (2026). “What Draws Potential Applicants Towards an Organization? The Importance of Employer Brand Process Attributes and Applicants’ Job Search Metacognitive Activities.” International Journal of Selection and Assessment, 34(2), e70061. 米国の求職者191人を2時点で調査。DOI: 10.1111/ijsa.70061.
