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マーケティング戦略の立て方|市場・顧客・競合からKPIまで

部署:マーケティング担当者部署:経営者・責任者レベル:実践
事業目標、顧客、提供価値、施策、KPIを一枚のマーケティング戦略に整理しているデスク

広告、SEO、SNS、展示会などの施策を増やしても、誰に何を届け、どの成果を目指すのかがつながっていなければ、マーケティング活動は場当たり的になりやすくなります。マーケティング戦略で重要なのは、施策を並べることではなく、市場・顧客・競合を踏まえて「どの顧客に、どの価値を、どの方法で届け、何を成果指標にするか」を一つの方針にまとめることです。この記事では、現状分析から目標、ターゲット、提供価値、施策の優先順位、KPI、実行ロードマップまでを一枚に整理する手順を解説します。

マーケティング戦略は「何をするか」より「何を選ぶか」を決める

マーケティング戦略は、広告やSEO、SNSといった個別施策の一覧ではありません。限られた予算や人員の中で、どの市場を狙い、どの顧客を優先し、どの価値を届け、どの施策に資源を配分するかを決める方針です。

日本マーケティング協会は2024年、マーケティングを「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させる」ための構想・プロセスとして定義しています。ここからも、マーケティングは販促だけではなく、価値の設計から浸透までを含む広い活動だと分かります。

戦略と施策を分けると、意思決定がしやすくなります。

区分 決めること 例
戦略 誰に、何を、なぜ選んでもらうか 中堅企業のマーケティング責任者に、導入後の運用負担まで含めた安心感を提供する
施策 その戦略を実現する方法 SEO、広告、ウェビナー、営業資料、導入事例
実行計画 いつ、誰が、どの順番で進めるか 10月に比較記事、11月にウェビナー、12月に商談フォローを強化する
KPI 戦略が前進しているかを見る指標 指名検索、資料請求、商談化率、継続率

施策から考え始めると、「SNSを始める」「広告予算を増やす」といった手段が先に決まりがちです。先に戦略を決めれば、各施策を採用する理由と、やめる理由の両方を説明できます。

最初に事業目標とマーケティングの役割を決める

戦略設計の出発点は、「マーケティングで何を達成したいのか」を事業目標とつなげることです。売上を伸ばしたいのか、新規顧客を増やしたいのか、既存顧客の継続率を高めたいのかによって、見るべき顧客や施策は変わります。

事業目標をマーケティングの課題へ分解する

たとえば「売上を増やす」という目標だけでは、マーケティング部門が何を改善すべきか判断できません。売上が「顧客数×平均単価×購入回数」で構成されるなら、どこを変えるのかを決めます。

新規顧客数を増やすのであれば、認知不足なのか、比較段階で負けているのか、問い合わせ後の商談化率が低いのかを確認します。平均単価を上げるのであれば、高付加価値プランへの移行や、価値の伝え方が論点になります。

この段階で、最終目標であるKGIと、途中経過を見るKPIを混同しないことが大切です。KGIは「最終的に何を達成するか」、KPIは「その達成に向けて何が前進しているか」を見る指標です。

評価期間と責任範囲を決める

戦略には評価期間が必要です。短期のキャンペーン結果だけを見るのか、半年から1年単位で顧客獲得構造を改善するのかでは、施策の選び方が変わります。

同時に、マーケティングだけで変えられる範囲と、営業・商品・カスタマーサクセスなど他部門との連携が必要な範囲を分けます。問い合わせ数だけを増やしても、営業体制が追いつかなければ売上にはつながりません。

市場・顧客・競合・自社を同じ土俵で整理する

目標を決めたら、次に現状を把握します。ここでは市場、顧客、競合、自社を別々に調べるだけでなく、「顧客が求めていることに対して、競合がどう応え、自社は何を提供できるか」という関係で見ることが重要です。

顧客を中心に市場、競合、自社の関係を整理したマーケティング戦略の概念図

市場・顧客・競合・自社は別々に分析するのではなく、顧客が何を求め、何と比較し、自社のどこに価値を感じるかという関係で整理します。

Salesforceもマーケティング戦略の策定を、環境分析、基本戦略、具体的施策の順で整理しており、環境分析では市場・消費者・競合・自社の把握を重視しています。

市場は規模より「どこが変化しているか」を見る

市場分析では、市場規模だけでなく、成長している領域、縮小している領域、顧客ニーズの変化、技術や規制の変化を確認します。

たとえば市場全体が横ばいでも、特定の業種や企業規模だけ需要が伸びていることがあります。反対に、市場が成長していても、自社が提供できる価値と合わなければ優先市場とは限りません。

顧客は属性ではなく「選ぶ理由」と「離れる理由」を見る

顧客分析では、年齢、業種、企業規模などの属性だけで終わらせません。顧客がどのような課題を抱え、どの情報を比較し、何を不安に感じ、何を理由に購入・問い合わせへ進むのかまで整理します。

BtoBでは、実際の利用者、情報収集者、比較担当者、決裁者が異なることがあります。その場合は、誰が最終決定するかだけでなく、各段階で誰が何を判断するかを分けて考える必要があります。

競合は商品だけでなく「代替手段」まで見る

競合分析で確認するのは、同じ商品やサービスを販売する会社だけではありません。顧客が同じ課題を解決するために選べる別の手段も比較対象です。

たとえば外部サービスの導入を検討している顧客にとっては、「他社サービス」だけでなく「自社で対応する」「現状のままにする」ことも選択肢です。競合の機能比較だけでなく、顧客がなぜ別の方法を選ぶのかを確認すると、差別化の根拠を見つけやすくなります。

自社は強みではなく「顧客にとって意味のある強み」を選ぶ

自社の特徴を並べただけでは、提供価値にはなりません。「長年の実績」「高い技術力」「充実したサポート」といった表現は、それが顧客の課題解決にどうつながるのかまで説明して初めて戦略に使えます。

顧客が重視する価値と自社の強みを結びつけ、競合と比較して選ばれる理由になるかを確認します。BtoB市場における顧客価値の研究でも、顧客が認識する価値を把握し、それを競合との位置づけや戦略策定につなげる重要性が示されています。

ターゲットと提供価値を一文で言える状態にする

現状分析の次は、狙う顧客と提供価値を決めます。ここで重要なのは、「誰にでも売れる」状態を目指すのではなく、優先する顧客を選び、その顧客に対して何を理由に選ばれるかを明確にすることです。

ターゲットは「受注できそう」だけで選ばない

優先する顧客を決めるときは、少なくとも次の4点を確認します。

課題の強さ、市場性、自社適合性、競争環境の4軸で優先ターゲットを判断する図

優先ターゲットは受注しやすさだけで決めず、課題の強さ、市場性、自社との適合性、競争環境を合わせて判断します。

  • 課題の強さ:解決したい問題が明確か
  • 市場性:十分な顧客数や成長余地があるか
  • 自社適合性:自社の強みを生かせるか
  • 競争環境:既存競合に対して選ばれる余地があるか

受注しやすさだけで選ぶと、小さな案件へ営業資源が分散することがあります。反対に、市場規模だけで選ぶと、大手競合と正面からぶつかり、獲得効率が悪化することがあります。

提供価値は顧客の変化で表現する

提供価値は、商品機能の説明ではなく、「顧客が導入前から導入後にどう変わるか」で表現すると明確になります。

たとえば「AIを搭載した分析ツール」ではなく、「毎週3時間かかっていたレポート作成を短縮し、担当者が改善施策の検討に時間を使える」といった形です。

提供価値を決めるときは、顧客が感じる便益だけでなく、導入コスト、学習負担、乗り換えリスク、社内説明のしやすさも確認します。顧客にとっての価値は、機能の多さだけで決まりません。

優先顧客を決めたあと、その顧客の課題・検索・比較・購買判断まで具体化するには、マーケティングペルソナの作り方を確認すると整理しやすくなります。

施策は「顧客行動をどう変えるか」で優先順位を決める

ターゲットと提供価値が決まったら、ようやく施策を選びます。ここでのポイントは、チャネルを多く持つことではなく、目標達成に必要な顧客行動を変えられる施策へ資源を集中することです。

たとえば課題が「認知不足」であれば、検索流入、広告、PR、イベントなどが候補になります。課題が「比較段階で選ばれない」であれば、導入事例、比較コンテンツ、料金説明、第三者評価、営業資料の改善が優先されるかもしれません。

施策の優先順位は、次の4軸で比較すると整理しやすくなります。

評価軸 確認すること
事業インパクト 目標達成への影響が大きいか
顧客適合性 対象顧客の行動・課題に合っているか
実行可能性 予算・人員・データ・期間で実行できるか
検証可能性 実施後に成果と原因を確認できるか

この4軸で比較すると、「話題だからやる」「競合がやっているからやる」といった判断を減らせます。

なお、商品、価格、流通、販促を整理する4Pは、戦略を施策へ落とす際に使える代表的な考え方です。ただし、4P自体の定義や4Cとの違い、BtoBでの具体的な使い方は別テーマとして整理し、ここでは戦略全体の一工程として扱います。

KPIは施策数ではなく顧客行動の変化を測る

KPIは、戦略が前進しているかを確認するための指標です。「記事を10本公開する」「広告を3本出す」といった実行量だけでは、顧客行動が変わったかを判断できません。

KPIを設計するときは、事業目標から逆算して、顧客行動の変化と施策指標をつなげます。

たとえば新規商談を増やす場合は、次のように分解できます。

事業目標からKGI、中間成果、顧客行動、施策指標へKPIをつなぐフロー図

KPIは施策ごとに独立して置くのではなく、事業目標から中間成果、顧客行動、施策指標までつなげて設計すると、成果が止まっている場所を確認しやすくなります。

事業目標:新規売上を増やす
→ KGI:新規受注額
→ 中間成果:新規商談数
→ 顧客行動:資料請求、問い合わせ、ウェビナー参加
→ 施策指標:検索流入、広告クリック、閲覧率、フォーム到達率

この構造にすると、「アクセスは増えたが商談が増えない」「問い合わせは増えたが受注率が落ちた」といった問題を切り分けやすくなります。

先行指標と結果指標を分ける

売上や受注は重要ですが、結果が出るまで時間がかかります。そのため、途中の変化を確認できる先行指標も設定します。

たとえばBtoBマーケティングなら、指名検索数、比較ページ閲覧、資料請求率、商談化率などが候補です。ただし、何をKPIにするかは事業モデルによって異なります。自社の顧客行動と売上までの流れに合わせて選ぶことが必要です。

マーケティング戦略は一枚にまとめると実行しやすい

戦略を実行へつなげるには、分析資料を増やすより、最終的な意思決定を一枚にまとめる方が有効です。重要なのは、分析結果そのものではなく「何を決めたか」が分かることです。

最低限、次の8項目を一枚に整理します。

項目 記載する内容
1. 事業目標 何を、いつまでに達成するか
2. 現状 市場・顧客・競合・自社の重要事実
3. 優先顧客 今回狙う顧客と、優先しない顧客
4. 顧客課題 顧客が解決したいこと、比較時の不安
5. 提供価値 自社が選ばれる理由
6. 優先施策 何を実行し、何を後回しにするか
7. KPI どの数字で進捗を見るか
8. 実行計画 誰が、いつ、何を行うか

「優先しない顧客」「後回しにする施策」も書いておくと、戦略がぶれにくくなります。戦略は、やることを増やすためではなく、限られた資源をどこへ集中するかを決めるために使います。

実行ロードマップでは仮説・施策・検証をつなげる

一枚の戦略ができたら、実行ロードマップへ落とします。ロードマップでは、単にタスクを並べるのではなく、「どの仮説を、どの施策で、どの指標を使って検証するか」をセットにします。

たとえば「比較段階で価格への不安が離脱要因になっている」という仮説があるなら、料金説明や導入効果の見せ方を改善し、比較ページから問い合わせへの遷移率や商談時の価格懸念の変化を確認します。

結果が悪かった場合も、すぐに戦略全体を変える必要はありません。次の順番で切り分けます。

施策実行から市場・ターゲットまで順番に原因を切り分けるマーケティング戦略の見直しフロー

成果が出ないときは、実行不足と戦略の誤りを混同せず、実行、到達、顧客行動、提供価値、市場・ターゲットの順で確認します。

  1. 施策は予定どおり実行されたか
  2. 想定した顧客へ届いたか
  3. 顧客行動は変化したか
  4. 提供価値の仮説は合っていたか
  5. ターゲットや市場選択そのものを見直す必要があるか

この順番で確認すると、実行不足と戦略の誤りを混同しにくくなります。

戦略を作るときに起こりやすい3つの失敗

マーケティング戦略は、フレームワークを埋めるだけでは機能しません。特に次の3つは注意が必要です。

分析だけ増えて意思決定が残らない

3C、SWOT、STPなどを実施しても、「誰を狙うか」「何を捨てるか」が決まっていなければ戦略にはなりません。分析の最後には、必ず意思決定を文章で残します。

チャネル別の数字だけで最適化する

SEOは流入、広告はCPA、SNSはフォロワー数というように、チャネルごとに数字を最適化すると、事業目標との接続が弱くなることがあります。最終的には、共通の顧客行動と事業成果へつなげて評価します。

KPIを増やしすぎる

確認する数字が多すぎると、何を見て判断するのかが曖昧になります。経営・責任者が見るKPI、担当者が日々見る運用指標を分け、意思決定に必要な数字へ絞ります。

まとめ

マーケティング戦略を立てるときは、施策から考え始めず、事業目標、市場・顧客・競合・自社、優先顧客、提供価値、施策、KPI、実行計画の順につなげて考えることが重要です。

最終的には、「誰に、どの価値を、どの施策で届け、何を成果として測るか」を一枚で説明できる状態を目指します。戦略が一枚にまとまれば、施策を追加するときも、やめるときも、判断の基準を共有しやすくなります。

まずは現在実施している施策を並べるのではなく、事業目標と優先顧客を一つずつ書き出し、その間を提供価値とKPIでつなげてみてください。

参考文献・データ元

この記事で参照した情報を確認できます。

・「34年振りにマーケティングの定義を刷新」公益社団法人 日本マーケティング協会、2024年1月25日
https://www.jma-jp.org/info/news/916-marketing
使用内容:マーケティングの2024年定義、価値創造・関係性・構想・プロセスの考え方

・「マーケティング戦略とは?策定手順3ステップやフレームワーク、成功事例を解説」株式会社セールスフォース・ジャパン、最終更新2026年7月17日
https://www.salesforce.com/jp/marketing/how-to-build-marketing-strategy/?bc=OTH
使用内容:環境分析→基本戦略→具体的施策の策定順序、3C・STP・4P等の位置づけ

・「マーケティング戦略とは?主なフレームワークと立て方」Shopify Japan
https://www.shopify.com/jp/blog/marketing-plan
使用内容:市場・環境分析、ターゲティング、価値明確化、マーケティングミックス、効果測定の流れ

・Ulaga, W. & Chacour, S. “Measuring Customer-Perceived Value in Business Markets: A Prerequisite for Marketing Strategy Development and Implementation.” Industrial Marketing Management, 2001.
https://www.insead.edu/faculty-research/publications/journal-articles/measuring-customer-perceived-value-business-markets
DOI: 10.1016/S0019-8501(99)00122-4
使用内容:BtoB市場における顧客知覚価値の把握と戦略策定への接続

・Day, G. S. & Wensley, R. “Assessing Advantage: A Framework for Diagnosing Competitive Superiority.” Journal of Marketing, 1988.
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/002224298805200201
DOI: 10.1177/002224298805200201
使用内容:顧客と競合の両視点から競争優位を確認する考え方

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