BtoBオウンドメディアの成功事例を見るときは、PVや問い合わせ数の大きさだけを比べても、自社で再現すべき施策は見えません。成果の背景には、どの段階の見込み顧客を狙ったか、誰が運営したか、どんな記事を作ったか、読後の行動をどう設計したかという条件があります。本記事では5社の公開事例を「成果」「運営体制」「記事設計」「CV導線」の4軸で比較します。結論は、成功パターンは一つではなく、自社で成果が止まっている場所に近い事例を選ぶことが重要だということです。
BtoBオウンドメディア成功事例は「4つの軸」で比較する
BtoBオウンドメディアの成果は、アクセス増加だけでは判断できません。立ち上げ期なら認知や検索流入が重要でも、一定の流入がある企業では、資料ダウンロード、問い合わせ、商談への移行が次の課題になります。
今回確認した5社でも、認知を先に伸ばした事例、記事から資料ダウンロードへつないだ事例、既存流入をCTA改善でリード化した事例など、成果までの経路は異なりました。

成功事例は成果数字だけで判断せず、体制・記事・CV導線まで分解して自社の課題と照合します。
| 企業・メディア | 公開事例で確認できる成果 | 運営体制 | 記事・コンテンツ設計 | CV導線 |
|---|---|---|---|---|
| LINE「おなじみ」 | 2022年4月時点で1年目の目標PVを達成 | 社内担当2名+外部パートナー | 店舗オーナー取材など一次情報を重視 | 認知目的に加え、アカウント開設・資料DLへの貢献を追加 |
| LISKUL | 月約70万PV、資料DL月500〜800件、問い合わせ月3件程度から200件 | マーケティングと営業の連携を強化 | 実務記事+60ページの無料ガイド | 記事→資料DL→MAで育成→営業対応 |
| SAKIYOMI | 支援事例でリード月10件から約500件、月40〜50件のアポ、月5件の受注 | 当初は記事制作を内製 | 3カ月で約100記事、その後リライトへ重点移行 | PV中心からCV中心へKPIを変更しCTAを改善 |
| 山洋電気 | 約1年後に資料DLのCV件数が8〜10倍、PVが1.5〜2倍程度 | 社内マーケティング部+外部支援 | SEO、製品別資料、サイト改善を組み合わせ | 記事・サイト→ダウンロード資料 |
| 富士電機ITソリューション | 2014年実績比で2018年の問い合わせ数が約3倍 | 社内営業部門+外部の営業・制作担当 | サイト構成、SEOコラム、情報改善を継続 | サービス理解→問い合わせまでの導線を再設計 |
各数値は、各社または支援会社が公開した事例の条件・時点に基づきます。対象期間やCVの定義が異なるため、企業間の成果ランキングには使えません。
5社に共通するのは、「記事本数を増やすこと」自体を成功条件にしていない点です。成果が止まっている場所を確認し、その段階に合わせて記事、資料、導線、営業連携まで調整しています。
LINE「おなじみ」|認知を作ってからCVへ目的を広げた
LINE公式アカウントのオウンドメディア「おなじみ」は、中小規模の店舗オーナーという潜在層への認知拡大と、新規ユーザー獲得を目的に2021年4月に立ち上げられました。公開インタビューでは、2022年4月時点で1年目の目標PVを達成したとされています。
成果|立ち上げ時はPV、途中から事業貢献も追跡
立ち上げ当初は認知獲得を重視していましたが、2021年10月ごろから、LINE公式アカウントの開設や資料ダウンロードへの貢献を目的とするコンテンツ戦略も追加しています。
この事例で重要なのは、最初からPV、リード、商談を同時に最大化しようとしなかった点です。まず媒体として読まれる状態を作り、その後に事業成果へ近い指標を加えています。
体制・記事設計・CV導線|社内2名を外部が補完
公開時点の社内運営は担当者を含む2名で、戦略設計やコンテンツ制作を外部パートナーが補完していました。記事では店舗オーナーへの取材など一次情報を重視し、認知目的の企画とサービス利用につなげる企画を分けています。
参考にしやすいのは、まだ認知や流入が不足している立ち上げ期の企業です。一方、すでに十分な流入があるのにリードが増えない企業がPV獲得だけを真似しても、同じ課題は解決しません。
LISKUL|記事から資料DL、育成、営業までを一本につないだ
LISKULの公開事例では、オウンドメディア開始前に月3件程度だった問い合わせが月200件まで増えたと説明されています。また、LISKULは月間約70万PVを集め、60ページの無料ガイドブックは月500〜800件ダウンロードされていたとされています。
成果|PVの先に資料DLと問い合わせを置いた
LISKULが用意したのは、記事を読んだ人へすぐ問い合わせを求める導線だけではありません。記事で実務ノウハウを提供し、その先により詳しいガイドを置くことで、まだ営業担当者へ相談する段階ではない読者とも接点を作っています。
BtoBの見込み顧客は、情報収集、比較、社内共有を経てから問い合わせることがあります。記事だけで完結させず、「次に確認したい情報」を渡せる状態にしたことが特徴です。
体制・記事設計・CV導線|資料DL後も営業接続まで設計
資料をダウンロードした見込み顧客には、マーケティングオートメーションを使ってステップメールなどを配信し、検討度合いに応じて営業へつないでいます。さらに、マーケティングと営業の連携を強め、リードや問い合わせの定義もそろえています。
参考にしやすいのは、「記事は読まれているが問い合わせまでの距離が遠い」企業です。記事と問い合わせフォームの間に、比較や社内検討に使える資料を置けるかが判断ポイントになります。
SAKIYOMI|流入獲得後にCTAとリライトへ重点を移した
THE MOLTSが公開するSAKIYOMIの支援事例では、当初3カ月で約100記事を制作し、検索流入や検索順位は得られた一方、リード獲得には十分つながっていなかったと説明されています。
成果|支援事例ではリード月10件から約500件へ
同事例では、KPIをPVからコンバージョン獲得数へ変更し、CTA改善とリライトを進めた結果、リード獲得が月10件から約500件、月40〜50件のアポイント、月5件の受注につながる状態になったと報告されています。
ここで「100記事を作れば成果が出る」と読むのは適切ではありません。流入を作った後、成果を止めている場所がCV導線にあると判断し、既存資産の改善へ重点を移した点が再現条件です。
体制・記事設計・CV導線|新規記事量産から既存資産改善へ
すでに検索流入がある企業では、新規記事を増やす前に、流入のある記事とCTAの組み合わせ、検索意図とオファーの一致、既存記事の更新余地を確認する必要があります。
流入不足の企業と、流入はあるがCVしない企業では、参考にすべき成功事例が違います。
山洋電気|SEO記事だけでなく資料と導線を同時に整えた
山洋電気の公開事例では、2020年からWebでのリード獲得を強化し、サイト改善、SEO、ダウンロード資料の作成などを進めています。約1年後には、資料ダウンロードのコンバージョン件数が8〜10倍、PVが1.5〜2倍程度になったと紹介されています。
成果|資料ダウンロードを主要な接点にした
同社は当時ダウンロード資料が十分になく、製品別の資料を一から作る必要がありました。アクセスを増やすだけでなく、「記事を読んだ見込み顧客が次に受け取れる情報」を増やしています。
体制・記事設計・CV導線|記事の出口まで一体で改善
SEOで流入を増やしても、記事の先に適切な受け皿がなければリード獲得にはつながりません。山洋電気の事例は、SEO、資料、サイト内導線を別々の施策ではなく、一続きの顧客体験として設計した例です。
特に技術情報や製品情報を比較するBtoB商材では、問い合わせ前に社内共有できる資料や詳しい製品情報が必要になることがあります。記事の出口が問い合わせだけになっていないかを確認する材料になります。
富士電機ITソリューション|記事以外のサイト構造まで改善した
富士電機ITソリューションの「軽技Web」は、早くからWebマーケティングに取り組んでいた一方、競争激化によってサイト経由の問い合わせが減少していました。メディックスの公開事例では、サイト構成、問い合わせまでの導線、SEOなどを見直し、2018年の問い合わせ数が2014年実績比で約3倍になったとされています。
成果|問い合わせ量だけでなく内容にも変化
公開事例では、サービス内容を理解した上で問い合わせる人が増え、機能や用途から外れた問い合わせが減ったという説明もあります。
BtoBオウンドメディアでは、問い合わせ件数だけでなく、営業が対応すべき問い合わせへつながっているかも重要です。
体制・記事設計・CV導線|公開後も定量・定性で改善
リニューアル後はGoogle アナリティクスによる定量分析と、営業担当・制作ディレクターによる定性的な分析を組み合わせ、改善を続けています。SEOコラムやホワイトペーパーなども営業戦略に合わせて展開されています。
この事例から分かるのは、オウンドメディアの問題を記事品質だけに限定しないことです。カテゴリ構造、サービス説明、関連記事、フォームまでの経路に詰まりがあれば、記事制作だけでは改善しません。
5社から見える成功パターンは4つ
5社の公開事例を同じ軸で見ると、再現を検討しやすいパターンは4つに整理できます。これは5社の公開情報を比較して整理したもので、すべてのBtoB企業に当てはまる統計的な法則ではありません。

成功事例では記事制作だけでなく、KPI、次の情報、サイト全体、営業連携まで改善対象が広がっています。
1. 成長段階に合わせて追う成果を変える
立ち上げ直後は認知や流入を増やし、一定の流入ができた後は資料ダウンロードや問い合わせへ重点を移します。LINE「おなじみ」やSAKIYOMIの事例では、媒体の状態に合わせて評価軸が変わっています。
2. 読者が次に必要とする情報を用意する
LISKULや山洋電気では、記事の先にダウンロード資料を設けています。2024年にIndustrial Marketing Managementで発表されたBtoB研究でも、顧客の検討段階に合うコンテンツはエンゲージメントに関係する一方、すべての顧客に共通する唯一の正しいコンテンツ順序はないと報告されています。
つまり、成功企業と同じCTAを置けばよいのではありません。自社の見込み顧客が、記事を読んだ後に比較、社内共有、要件整理のどれを進めたいかを考える必要があります。
3. 記事以外のボトルネックも直す
SAKIYOMIはCTAと既存記事、山洋電気は資料とサイト導線、富士電機ITソリューションはサイト構造まで改善しています。
検索流入が増えないのか、記事は読まれるが資料へ進まないのか、資料DLはあるが営業につながらないのか。問題が起きている場所を分けると、次に改善すべき対象が変わります。
4. 運営体制を「記事を書く人」だけで考えない
BtoBデジタルコンテンツマーケティングを扱った2022年の研究では、36社・56名のマネージャーへのインタビューをもとに、コンテンツ制作・配信だけでなく、顧客ジャーニーの調査など複数活動を組み合わせる枠組みが示されています。
2026年の日本語の統合的レビューでも、BtoBデジタルコンテンツマーケティングでは、コンテンツ、顧客、顧客ジャーニーに関わる要因と、信頼・関係価値・営業生産性などの成果が整理される一方、因果経路には今後の研究余地があるとされています。
今回の事例でも、編集担当だけで完結せず、営業、マーケティング、外部支援会社などが関わっています。体制は「何人で記事を書くか」ではなく、顧客理解、制作、分析、営業接続を誰が担うかで考えます。
事例から抽出したパターンを自社の認知・獲得・育成・商談化へ落とし込む方法は、BtoBコンテンツマーケティングの設計方法で整理しています。
自社に近い成功事例は「今の詰まり方」で選ぶ
成功企業と同じ業界かどうかだけでなく、「自社ではどこで成果が止まっているか」が近い事例を優先します。

自社で成果が止まっている段階を特定すると、新規記事・CTA・資料・営業連携のどこを優先すべきか判断しやすくなります。
| 自社の状態 | 参考にしやすい事例 | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| 立ち上げ直後で認知が足りない | LINE「おなじみ」 | 誰に届けるか、認知と事業貢献のKPIを分けているか |
| PVはあるがリードが少ない | SAKIYOMI、LISKUL | 流入のある記事に次の行動が設計されているか |
| Webから新規リードを増やしたい | 山洋電気 | 資料など問い合わせ前の受け皿があるか |
| 問い合わせが減っている | 富士電機ITソリューション | 記事以外のサイト構造・導線も点検したか |
| リードは取れるが営業につながらない | LISKUL | リード定義、育成、営業への引き渡し条件があるか |
たとえばPVが足りない企業がCTA改善だけを優先しても、対象となる読者が少なければ成果は限定的です。反対に、流入が十分ある企業が記事数だけを増やし続けても、CV導線の問題が残ります。人材・採用業界の事例は、人材・採用業界のオウンドメディア成功事例で比較しています。リーガルテック企業の事例は、リーガルテック企業のオウンドメディア分析で整理しています。
成功事例を自社へ移す前に6項目を確認する
他社の成功事例を自社へ落とし込む前に、少なくとも次の6項目を確認します。

成功施策そのものではなく、成果の種類、期間、開始前の課題、体制、CV導線、記事外の改善まで確認してから自社へ転用します。
- その事例の成果はPV、資料DL、問い合わせ、商談、受注のどこか
- 成果が出るまでにどの程度の期間がかかったか
- 施策開始前はどこに課題があったか
- 社内と外部で誰が何を担当したか
- 記事の先にどのようなCV導線があったか
- 記事以外にサイト構造、資料、営業連携を変えていないか
複数の施策を同時に行った事例では、公開情報から個別施策の寄与率まで判断できない場合があります。「同じCTAを置けば同じ成果が出る」と読むのではなく、「どの課題に対して、どの施策を組み合わせたか」を参考にしてください。
自社で比較するときは、まず「流入」「次コンテンツへの遷移」「リード」「営業接続」の4段階に分け、どこで止まっているかを確認します。その後に、該当する成功事例の体制・記事・導線を照らし合わせると、優先順位を決めやすくなります。
まとめ
BtoBオウンドメディアの成功事例は、成果の数字だけでなく、運営体制・記事設計・CV導線まで同じ軸で見ると、自社へ応用できる条件が見えやすくなります。
今回の5社では、認知からCVへ段階的に目的を広げる、記事の先に資料を用意する、流入獲得後にCTAと既存記事を改善する、サイト構造や営業連携まで含めて整えるという異なるパターンが確認できました。
まずは自社の流入、記事閲覧、資料ダウンロード、問い合わせ、商談のどこで成果が止まっているかを確認してください。そのうえで、現在地が近い事例の「成果・体制・記事設計・CV導線」をまとめて比べると、表面的な成功施策のコピーではなく、自社で再現すべき条件を選びやすくなります。
参考文献・データ元
この記事で参照した情報を確認できます。
- 株式会社はてな「導入事例:メディア運営に必要なコミュニケーションの力 – LINE株式会社」
- LISKUL「【LISKUL事例】毎月200件リードを獲得する、BtoBマーケティングのノウハウを公開!」
- THE MOLTS「BtoBオウンドメディア成功事例|効果的な施策と戦略構築法」
- 株式会社ALUHA「BtoBマーケティング大賞2024を受賞された山洋電気株式会社様のコンサル支援事例」
- 株式会社メディックス「BtoBサイトリニューアル事例|問い合わせ数がリニューアル前の約3倍になりました」
- Salonen, A. et al. “Digital content marketing on social media along the B2B customer journey: The effect of timely content delivery on customer engagement.” Industrial Marketing Management, 2024.
- Terho, H. et al. “Digital content marketing in business markets: Activities, consequences, and contingencies along the customer journey.” Industrial Marketing Management, 2022.
- 西川郷介「B2Bデジタル・コンテンツ・マーケティングによる顧客エンゲージメント形成―先行要因・形成プロセス・成果の統合的レビュー―」『マーケティングジャーナル』2026年。
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